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『椿説弓張月』

 曲亭馬琴作、葛飾北斎画の読本で、前篇6冊、後篇6冊、続篇6冊、拾遺6冊、残篇6冊から成る。主人公の源為朝は平安末期に実在していた武将で、弓の名人として名高く、13歳の時に九州へ追われて「鎮西八郎」と称し九州を掠取した。保元の乱で破れて伊豆大島に流された後自殺したが、琉球に渡って王朝の祖となったという伝説がある。本作は馬琴の史伝物の初作であり代表作でもあるが、史伝物とは歴史上の英雄豪傑の外伝で、歴史文献を用いながら虚構を交えた小説である。本作が出された頃の江戸は読本が大流行し、後年、馬琴は『近世物之本江戸作者部類』の中で、「文化年間、読本が盛んであった頃は毎日朝早く机に向かい、三度の食事も机の辺りで食べ、夜は十時の鐘を聞いてから筆を納めるが、その後も読書をして明け方になることも多かった」と振り返っている。江戸の読本は上方で歌舞伎化されることが多く、本作も文化5年(1808)11月、大坂中の芝居で「島廻月弓張(しまめぐりつきのゆみはり)」という外題で上演されている。挿絵を描いた北斎は世界に誇る浮世絵師であるが、富士山を描いた「富嶽三十六景」などの一枚絵だけではなく、版本の挿絵にも傑作が多い。浮世絵師の伝記を記した『浮世絵類考』には「絵入読本此人より大に開けたり」という記述がある。馬琴作・北斎画の読本は他にもあるが、強烈な個性の両者にはたびたび意見の対立があったとも伝えられている。

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