貴重書ギャラリー

ポール・ヴェルレーヌ『サテュルニアン詩集』 Poēmes saturniens, Paris: Alphonse Lemerre, 1866.

 『サテュルニアン詩集』は1866年にポール・ヴェルレーヌ(Paul Verlaine, 1844-1896)が自費出版した処女詩集。この頃はある意味で、高踏派の隆盛期で、高踏派が理想とする、造形的な詩句を作ろうと努力していた。同年4月に第1次《現代高踏詩集》に詩6篇を寄せている。処女詩集は、16,17歳頃の詩を含めて、巻頭詩、プロローグ、4章25篇、他12篇、エピローグの計40篇から成る。注目すべきは、後の象徴派やデカダン派の代表的詩人となるヴェルレーヌを既に予見させる「秋の歌」を始めとする若干の詩が含まれていることである。一般に広く知られるようになるのは1900年(明治33年)3月に再版が出てからである。
 日本では、5年後の1905年(明治38年)、上田敏が訳詩集『海潮音』を世に出す。「秋の日の ヴィオロンのためいきの みにしみて ひたぶるに うら悲し」で始まるヴェルレーヌの「秋の歌」はその名訳で一躍有名になった。処女詩集第3章< 悲しき風景> の一篇。
 象徴派の信条となるヴェルレーヌの有名な「詩法」が《近代パリ》誌に公表されるのが、1882年11月。上田敏の名訳は「何をおいてもまず音楽を そのために奇数脚を好め」「我らは<色彩>ではなく<陰影>をもとめる」を想起させてくれる。高踏派の訳詩が多い中で象徴詩の魅力を紹介し、ヴェルレーヌ以外の象徴派の詩人たちにも関心を抱かせるのに大いに貢献した。また訳詩の範として日本の近代詩の動向にも影響を与えた。
 本書は『サテュルニアン詩集』の初版本。表紙には1867年とあるが、内表紙にはM. DCCC. LXVI(1866)の記載がある。印刷は1866年10月20日。なお、文芸批評家アルモン・ド・ポンマルタン(1811-1890)氏に献呈した著者の署名がある。