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ヘルマン・ヘッセ『ペーター・カーメンツィント』

 『青春彷徨』, あるいは『郷愁』といった邦題で知られるヘッセ最初の長篇小説。辺鄙なアルプスの村に生まれたペーターは、ギュムナジウム(9年制の中高等学校)や大学で友情と恋に出逢う。その後文筆を生業とするものの、放埓な都会暮らしに倦み、異郷をさまようこととなる。やがて、清貧と奉仕の聖者フランチェスコの導きとアッシジの人々の牧歌的な日常に癒され、障害を負う少年の寄る辺ない魂に人生のフモールをおしえられる。詩人を夢見ていたペーターだったが、老いた父のために故郷に帰ってくる。ライフワークの草稿は引出しにしまわれているものの、村のワイン酒場を引継ぐことで、人生の決着がつきそうな男の回顧譚という体裁である。
 自然と田園生活への抒情的な讃歌、大都市と機械文明に対する批判、青春を美しい青年に擬える友情のエピソード、遥かな高空にうかぶ白い雲に譬えられる女性像、止みがたい漂白への憧れ、聖フランチェスコへの帰依といった主題は、以後いくつもの作品で変奏されることになる。
 1899年9月バーゼルの書店に移り、1901年1月までつとめたヘッセは、1901年3月のイタリア旅行の後、この小説を起稿、1903年4月の再度のイタリア旅行を挿んで5月に脱稿している。自伝的構成はヘッセ作品の多くに見られる特徴だが、バーゼルの歴史と文化、スイスの自然、イタリアへの旅、母の死といったヘッセの身辺事情がこの小説の背景をなしている。
 1904年2月に初版3,000部が刊行されたペーターの彷徨と自己形成の物語は反響を呼び、同年7月には第4版、第5版が増刷され、2年間で36,000部、5年間で50,000部という成功を収めた。

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