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『世間胸算用』

 井原西鶴作の浮世草子で、絵師は未詳ながら蒔絵師源三郎風である。浮世草子とは天和2年(1682)刊の西鶴作『好色一代男』によって確立された町人文学で、現実的で娯楽的な内容を持ち、上方中心に版行された。本作は西鶴町人物の最優秀作との定評があり、各巻の題簽及び目録題下にある副題「大晦日(おおつごもり)は一日千金」が示すように、各巻4章全20編のうち極一部を除いて大晦日の出来事を描いている。この日は一年最後で最大の収支決算日で、町人たちにとってはそれをいかに乗り切るかが問題であった。金銀を積み上げて新年を迎える大町人、転落寸前の大問屋、堅実な中流商人、必死に算段する中小商人、長屋住まいの貧民など、各階層の町人たちが実に生き生きと描かれている。俗語を多用し、登場人物の会話によってその人物像を浮かび上がらせる手法も見事である。元禄期は好景気に沸き、様々な文化が花開いた時代であったが、本作はそれを支える庶民の現実的な生活を描いているのである。本書はもと5 巻5 冊であったものを1冊に合本し、巻3の題簽を付している。京都上村平左衛門、江戸万屋清兵衛、大坂伊丹屋太郎右衛門刊のいわゆる「三都版流布本」である。巻1所収の4話について、本文の上部余白に後人が風俗考証、疑問点、寸評などを28箇所にわたり書き込んでいるのも興味深い。

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