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承久記じょうきゅうき1冊 江戸時代初期書写

 『承久記』は承久3年(1221)に起こった承久の乱を題材とした軍記作品で、三代将軍源実朝亡き後の鎌倉幕府を滅ぼそうと企てた後鳥羽院の挙兵と敗退、隠岐の島配流までを描いている。『保元物語』『平治物語』『平家物語』と併せて四部合戦状と呼ばれ、琵琶法師によって語られた「語り物」であったという。厳存する諸本は、慈光寺本、前田家本、流布本、承久軍物語の4種に分類される。
 諸本のなかでは、彰考館文庫に蔵されている慈光寺本『承久記』が最も古態を残しているとされるが、極めて特異な本文を持つ孤本で、他本との直接的な交渉はなかったと考えられている。
 本書は表紙題簽に「古鈔本」と書かれており、料紙も斐紙の大本で近世前期の流布本の姿を伝える善本である。『承久記』の写本はあまり多く残されてはおらず、本書が属する流布本系では内閣文庫蔵本が異文を多く含むが、他の多くは慶長古活字本に近い本文を有している。本書もその例外ではないが、他の伝本が上下2巻であるのに対し、本書は本文も上下巻の区切りなく連続しており、始めから1巻仕立てとなっている。