貴重書ギャラリー

ハンマー編『シェイクスピア全集』 The Works of Shakespear, in Six Volumes. ed, by T. Hanmer, Oxford: Printed at the Theatre, 1743-1744.

 トーマス・ハンマー(Thomas Hanmer, 1677-1746)はイギリスの下院議員を務めた政治家であったが、政界を引退後、シェイクスピア学者として6巻からなる全集を編纂した。フォリオ以後に出版された全集としてはティボルド版に次ぐ4番目の全集である。第1巻に記されている全集全体のタイトルに“Adorned with Sculptures designed and executed by the best hands.”と書かれているように、挿絵入りの豪華本だが、本文はポープ編『シェイクスピア全集』をほぼ同じ形で踏襲したものである。ポープ編全集のタイトルページにある赤インク刷りがないこと、編者の序文の他にポープの「序文」が再録されていること(「ハンマー編全集には関係が無い」として一部省略されている)、シェイクスピアの肖像画の違いなど些細な異同が見られる他に、各戯曲の最初のページに舞台の挿絵が置かれていることが目立った違いと言えよう。そのほかは、ニコラス・ロウの「シェイクスピアの生涯」、ベン・ジョンソンの「シェイクスピアに寄せる短い賛歌」があることもポープ編全集と全く同じである。ただし、ポープ編を踏襲しているが、この全集には「索引」はなく、代わりに「語彙集」が第6巻の巻末に付いている。本文には「恣意的な改訂」が加えられ、18世紀に出版された全集のなかでは最も価値が乏しいとされている。とはいえ、各戯曲に1枚ずつ添えられている舞台挿絵は、それらの挿絵についての時代考証や信憑性の検証が必要ではあるが、シェイクスピア劇を忠実に上演しようとするならば、靴や靴下、帽子なども含めた衣装や、髪型、剣や槍、袋物などの小道具、あるいは礼儀作法・風俗等の時代考証には欠かせない貴重な資料になると考えられる。